2011年1月22日(土)に兵庫県伊丹市で開かれた『内閣告示「常用漢字表」説明会』に参加(出席)してきました。
この説明会は兵庫県伊丹市、愛媛県松山市、福井県福井市で開かれます(詳細は内閣告示「常用漢字表」説明会の開催について(御案内))。
私は関西在住ではありませんが、この中だと一番行きやすいのが伊丹市だったのでそこを選びました。
参加理由の内訳はこんな感じです。
・常用漢字表の改定に携わった人の生の話を聞きたい!……5割
・常用漢字改定に関する何か貴重な資料を見たりもらったりできるかもしれない!……3割
・めったにあることではないのでとりあえず参加しておきたい……1割
・サイトのネタにはもってこいだ……1割
内閣告示「常用漢字表」説明会 概要
日時:2011年1月22日(土) 13:30〜16:40
場所:伊丹市立産業情報センター6階のマルチメディアホール
主催:文化庁・伊丹市
共催:兵庫県教育委員会・伊丹市教育委員会
登壇者(敬称略):林史典(はやしちかふみ)・前田富祺(まえだとみよし)・氏原基余司(うじはらきよし)
内容:内閣告示「常用漢字表」の概要の説明(林)・内閣告示「常用漢字表」に関する鼎談(林・前田・氏原)
参加者数:70名弱(用意されていた座席数から推定)
参加者の年齢:40代〜60代と思しき方々が大半でした
参加者の性別:男女半々といったところでした
取材:毎日放送(MBS)が取材、その日にテレビ放送、Webでも配信(既に見られません)
登壇者紹介
林史典(はやしちかふみ):聖徳大学教授、国語分科会会長、漢字小委員会副主査
前田富祺(まえだとみよし):大阪大学名誉教授、神戸女子大学名誉教授、国語分科会漢字小委員会主査
氏原基余司(うじはらきよし):文化庁文化部国語課主任国語調査官
では当日の記録をお伝えします。
JR伊丹駅。初めて来ました。
伊丹市立産業情報センターが入る伊丹商工プラザ
入口の案内
入口のドアに説明会のお知らせの紙が貼ってありました。
1階ロビーにあるディスプレイ。
この説明会には6階のマルチメディアホール以外に4階の会議・研修室ABCも割り当てられていますが、
これらは登壇者や文化庁職員の控室になっていたようです。
ディスプレイの隣に貼ってあったお知らせの紙
エレベーターで6階へ上がりました。奥に見えるのは受付です。
受付で名前を告げて、資料をもらって、会場へ。これは会場内。
受付は13時からでしたが、少し早めに済ませました。この写真は12:56の状態です。
開始までの間、正面のスライドには次のような画面が出ていました。
内閣告示
「常用漢字表」説明会
平成23年1月22日(土) 13:30〜16:40
兵庫県伊丹市 伊丹市立産業情報センター
平成23年2月19日(土) 13:30〜16:40
愛媛県松山市 松山市青少年センター
平成23年2月28日(月) 13:30〜16:40
福井県福井市 福井県県民ホール
【配布資料】……封筒の中身を御確認ください。
1 冊子
2 内閣告示「常用漢字表」説明会
3 「日本語と漢字 その歴史と現在」
4 追加字種における「字体別(同一字種)」出現頻度例
5 質問票……休憩時に提出
6 アンケート……お帰りの際に提出
もしも、不足の資料がございましたら、
受付又は会場内係員までお申し出ください。
【本日の日程(予定)】
13:00 受付開始
13:30 開会式
13:40 「常用漢字表」の概要の説明(75分)
14:55 休憩・質問票回収(20分)
15:15 「常用漢字表」に関する鼎談(80分)
16:35 閉会式
16:40 終了
【お知らせ】
配布資料「内閣告示「常用漢字表」説明会」の
「参考資料」(p.24〜24)に関連して
1 文部科学省からの通知文書は、
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1299787.htm
で見ることができます。
2 「常用漢字表改定に伴う学校教育上の対応について」
(まとめの概要)の全本文は、
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/__icsFiles/afieldfile/2010/12/08/1299787_05_1.pdf
で見ることができます。
受付でもらった資料
左側の紙は文化庁サイト内の説明会案内ページにあります(【関西地区】のリンク)。
封筒の中身を出すと、このような感じです。
・内閣告示「常用漢字表」説明会(25ページ)
・日本語と漢字 その歴史と現在(林氏のレジュメ)(7ページ)
・漢字出現頻度に関する資料(4ページ)
・改定常用漢字表(平成22年6月7日 文化審議会答申)(分厚い冊子)
・質問票2枚(休憩時に提出)
・アンケート(終了後に提出)
改定常用漢字表の冊子です。
これは文化庁サイト内の国語分科会報告・答申等のページから見られます(一番下のリンク)。
鼎談の間、前方に置いてあった貴重な資料
漢字出現頻度数調査
出現文字列頻度数調査
漢字出現頻度数調査(ウェブサイト)
漢字出現頻度数調査(新聞)
では、ここから時系列順に記します。
13:28 前田氏・氏原氏が着席
13:31 林氏が着席
13:32 開始
司会は文化庁文化部国語課の鈴木氏、開会の挨拶
13:33 氏原氏挨拶
「常用漢字表」と名の付くものは5回目
・最初は大正12年
・次は昭和6年
・次は昭和56年
・次は今回の平成22年
ここまでで4回だが、実は昭和21年の当用漢字の元となったものは常用漢字表案という名前
これで計5つ
旧国語審議会は平成13年に文化審議会国語分科会になった
13:39 司会の鈴木氏による資料確認とその説明
13:45 林氏が登壇、部屋のカーテンを閉めて、スライドにプロジェクターで投影
以下、配布されていたレジュメに基づいて説明
レジュメタイトル「日本語と漢字 その歴史と現在 ―常用漢字改定の意義―」
1 漢字の特徴
古代の単語文字にはヒエログリフ、楔形文字、漢字…
単語文字である漢字は、音素文字であるローマ字や音節文字である仮名と比較して、習得が難しいが優れた表語機能を有する
2 日本語への適応
漢字の獲得 漢委奴国王の金印→500年後、稲荷山古墳出土太刀銘→200年後、古事記・日本書紀・万葉集
書記法 単語文字と音節文字を組み合わせた混合書記法の完成
読み方 多様な音読みと訓読みの発生、呉音・漢音・唐音、訓読みは漢文訓読の影響、一字多訓・同訓異字
3 漢字表の必要性
知識層の占有物だった漢字が社会の共有物へ→読み書き能力に大きな個人差
振り仮名の起源は漢文の訓点、読み書き能力の個人差解消手段、振り仮名を減らす努力
終戦直後の新聞を紹介、漢字は総ルビである
漢字表の制定 社会が共有すべき漢字の範囲が必要で、誰もが読めることを要する文書はその漢字範囲内で納めることが重要
4 日本の漢字施策(レジュメにはありますが、解説は省略されました)
当用漢字表1850字、当用漢字音訓表・字体表、常用漢字表1945字、表外漢字字体表
5 常用漢字表改定の目的
文字の歴史における2つの技術革命は印刷・活字の発明と情報機器の発明
情報機器の発達で、書けなくてさらに読めない漢字までも「使える漢字」になった
使える漢字が増えたことで日本語の表記が難しくなりすぎる恐れがある
実態に合わせて読みとりやすい日本語表記のための漢字使用範囲の見直しが必要になった
6 常用漢字表改定の考え方と内容
基本は常用漢字表の考え方を踏襲
改定にあたっての調査対象
情報化が進行する前の文書を含まない、専門分野は除く、量的に十分な調査が可能、現在の常用漢字表の制約を受けているものは除く
2004〜2006年の書籍・雑誌の組版データを利用、調査対象漢字は5000万字
朝日新聞・読売新聞、ウェブサイトも利用
字種や音訓の採択は出現頻度を基本とし、各自の使用状態も重視
国民の意見を集めるため会議は公開、議事録もWebで公開、パブリックコメントも2回実施
7 情報化時代の漢字政策と漢字教育の課題
漢字教育の課題 「俺・艶・淫」などは学校で教えなければならないのか
「鬱」は書けるよう指導しなければならないのか
14:59 林氏終了、休憩開始
15:02 休憩中、林氏が毎日放送の取材を受けていました
記者兼カメラマン「26年ぶりに改定された……」
林氏「29年ぶりですね」
記「あっ、失礼しました。29年ぶりに改定された……」
記者がしていた質問は、常用漢字が何字増えたのかなどということを具体的に教えてくださいというのと、
今後また常用漢字表が変わるとしたら何十年後になるのか、といったような感じでした。
やたらと「29年ぶり」というのを強調していました。
ちなみに毎日放送のサイトで公開されていたこのニュース映像では、この林氏取材は使われていませんでした。
この休憩時間中は、質問票の提出時間でもあります。
15:18 司会の鈴木氏「想定していたよりも質問が多いので、誰がどの質問に答えるかの割り振りに時間がかかっています」
15:20 鼎談開始 林氏・前田氏・氏原氏が登壇 氏原氏が進行役という立場
氏原氏「質問が予想以上に多かったです」
15:22 前田氏による解説
質問に対する直接の答えではなく、その回答につながる概要の話
字体と字形はここ何十年で厳密になってきた
それらが過去の漢字表でどのように意識されていたか
15:38 氏原氏による解説
活字や手書きの字形に関わる質問が多かったらしく、その解説から。
質問があったのは「木」の2画目を撥ねるか否か、「角」の3画目を払うか否かなど
他に「衣」の4画目(1画で書くか2画で書くか)も例示
「昔質問されたのは「児」の6・7画目(ひとあし)はどの位置から出るのが正しいのかということ、
6画目は縦棒と日の間から、7画目は日の真ん中からでよいのかと聞かれたが、これは教科書体がそうなっているからだと思われる」
「子供の書く字形は教科書体で決まる」
15:52 林氏による解説
1点しんにゅう・2点しんにゅうの話(前半に使用したレジュメの「7」にある)
加わった3つの字は2点しんにゅうになった
「しかし指導の際はどうぞ1点しんにゅうでお教えください」
15:59 前田氏による解説
質問の中に「「朕・璽」が削除されなかったのはなぜか」があったので、字種の選定の話
当用漢字の歴史など
憲法関係の漢字は委員全員が削除する合意には至らなかった
16:13 氏原氏による解説
改定前の常用漢字表は、当用漢字表にあったものをそのまま残し、そこに95字を足した
憲法は国民が一番知っていなければならない法律、そこに登場する漢字は当用漢字に入れる→常用も踏襲→今回も踏襲
漢字出現頻度関係の資料の解説
「茨・淫・嗅」などは字体の差があるが通用字体が多く出現する、特に教科書では全部通用字体
「遜・遡・謎・餌・餅」でも同じである
ウェブサイト調査では「蚕」の旧字体「蠶」が31位という上位に
→理由が分からず3日間寝ずに調べたらアスキーアート(下記写真)に使われていてそれが大量に書き込まれていたことが判明
よってウェブサイト調査データのうち電子掲示板投稿文は全て除外した
「藤」の使用例をみると藤田・藤原・藤井・加藤・伊藤…とほとんどが固有名詞になっている
16:28 林氏によるまとめ
16:31 前田氏によるまとめ
16:33 氏原氏による2点補足
公用文における漢字
漢字出現頻度では改定前の常用漢字だけで96%以上
16:36 司会の鈴木氏による締め 文化庁月報2月号は常用漢字特集なのでよろしく(宣伝)
16:37 氏原氏による締め
16:38 終了
感想
林氏はスライドを交えた分かりやすい説明で、聞きやすかったです。大学時代を思い出しました。
氏原氏は、いろんな数値(漢字の数)や年数を何も見ずにスラスラと言うので、驚かされました。
前田氏はトータルしても30分ぐらいしか話されてないので、もう少しお話を聞けたらよかったと思いました。
氏原氏が最後に、この説明会で話した内容は多くの国民に知っておいてほしいというような趣旨のことを言っていたと思いますが、 それならこの説明会の様子を動画で撮り、文化庁のサイトで公開してみたりするのも一案かなと思います。